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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(7)

 

 朝早く、ラフムとラハムは商人街に向かっていた。

 昨晩二人はエンリルに相談しようかと話し合ったが、ヘリルが怪しいといっても町の中で自分たちに危害を加える理由は無いはずだし、現時点でエンリルに伝える事は何も無いので、ヘリルの天幕に赴く事にしたのだ。

 商人街は朝から活気があり、食料品を中心にした露店が多数出ていた。食料品の市場を抜け、武器商が並ぶヘリルの大天幕の付近に出た。この辺りまで来ると店はまだ開店前で、あまり人気が無かった。

 木の柵に取り囲まれた天幕の唯一の入り口には、二人の灰色の鎧を身に付けた衛兵が立っていた。衛兵は二人が近づくと厳しい目を向けた。

「何用だ。」衛兵は言った。

「私たちはヘリル様に呼ばれた者です。ラハムとラフムといいます。」

衛兵はもう一人の衛兵に目配せをした。隣にいた衛兵は無言で槍を持った右手で、着いてくるように手招きし、柵の中に歩き始めた。

 二人は天幕の中に通された。天幕の中は複雑に白い布で仕切られていて、通路は迷路のように入り組んでいた。

 しばらく進むと小さな部屋に出た。そこにまた同じ灰色の鎧を着た衛兵がいた。

「ここで武器を置いてもらおう。」その衛兵は横柄な口調で言った。

「失礼ではないですか。」ラフムが応えた。「私達はヘリル様に招かれてここに来たのです。こんな所に武器を預けて、誰が私たちの生命の保障をしてくれるのでしょうか。」

「これは規則なのだ。」衛兵はいらいらしたように言った。「さあ早くその剣を置け。」

「それならもう結構です。」ラフムがきっぱりと言った。「残念ですが、帰らせて頂きます。」

ラフムはラハムに目配せし、その部屋を出るそぶりを見せた。

「まあ待て待て。」今度はここまで案内してきた衛兵が言った。「ヘリル様はお前たちを祝いの為に招いたと聞いている。ただあの方は用心深いお方だ。武器を置いて行かなくてもいいが、その場合、面会は代表で一人だけだ。また、我々のどちらかがついていくことになるがそれでいいか。」

「どうする。」ラフムが小さな声でラフムに言った。

「いいんじゃない?」ラハムが言った。「それでは、私が行きます。」

 ラフムは少し心配そうな顔をしたが、ラハムには万が一この先に危険があったとしても避けられる自信があった。このように白い布で仕切られた部屋や通路なら、いざとなればすぐに布を裂いて逃げ出すことができる。

 

 ラハムは衛兵とともに小部屋から出て通路を進んだ。途中、人の声や気配がする部屋の前を何回か通り過ぎた後、衛兵が立ち止まった。

「ヘリル様、お連れしました。」

衛兵が声をかけると白い布の扉の向こうから返事があった。衛兵はそれを聞くと扉を開いた。

 部屋は広く、武器や防具、他によくわからない小瓶や羊皮紙などが乱雑に散らかっていた。部屋の中心には小さな机と椅子があり、そこに派手なチョッキを着た禿げ頭の小男がペンを片手に座っていた。

「突然の呼び出し申し訳ない。よく来てくれました。私がヘリルです。」小男はかん高い声で自己紹介した。早口である。言葉は丁寧だが、態度からはあまりラハムを歓迎しているようには感じられなかった。

「私はラハムです。兄のラフムとともに旅をしています。」ラハムは言った。

「だいたいは聞いています。あなた達が双子でギルドになったばかりであることも。なにぶん忙しいので、要件から話します。私は先月からギルド専属の武器商人になりました。つまり、ギルドの紋章である『黒トカゲ』入りの武具は私からしか手に入れることはできないという事です。」ヘリルは上目遣いにラハムを見た。「見たところ、戦士のようですね。盾、鎧、マントのうちどれが欲しいですか。」

「えっと、できれば、皮の鎧がいいです。」

「皮の鎧!」ヘリルは大声で言った。「いいものは高いですよ!」

「え?じゃあ、別にいいです。」ラハムはヘリルの早口に押され気味だった。

「冗談です。」ヘリルは表情を変えずに言った。「サーバントからカネを取ろうとは思いません。今回はギルドメンバーになった祝儀としてタダで提供します。出世した暁にはご贔屓に!」

ヘリルは机の上に置いてあるベルを2回鳴らした。すると、部屋の奥の布がさっと開き、職人と思われる男が出てきた。

「失礼します。」職人はそう言うと、ラハムの身体のサイズを測り始めた。「お連れの方はあなたと同サイズですか。」

ヘリルはすでにラハムには目もくれず、机で書き物をしている。

「そうです。全く同じサイズです。」

「ならば、同型の鎧が二つあればよいですね。」

職人の男はそう言うと、隣の部屋に戻っていった。おそらくは、鎧を見繕っているのだろう。

 ラハムは手持ち無沙汰になったので、ヘリルに気づかれないようにそっと部屋を見回していると、ふとヘリルの机の周りに散らかった羊皮紙の一枚に目がとまった。

(あっ、あれは・・。)

羊皮紙にかかれた表の構成に見覚えがあった。何年にもわたる人口の推移と、食糧消費量、農地面積の関係が分かるようになっている。それは、キシャルの部屋から持ち帰った人口調査表と同じ構成だったのだ。

「それに興味があるのですか。」ヘリルはさっとその羊皮紙を取り上げた。その素早さは、羊皮紙が見られたくないものであったかのようだった。

「あ、いいえ。ヘリル殿は食料も扱っているのかと思いまして・・・。」

ヘリルは険しい目つきでラハムを見た。ラハムははっとした。よく考えれば素人がそんな表を見ただけで、それが人口と食料消費量の関係を示している事が分かるはずもない。ラハムは内心動揺したが、表に出さないように努めた。

「私の商売について詮索しないでもらいたい!」

 ヘリルは散らかった羊皮紙を片付けながら、不機嫌そうな声で吐き捨てた。それ以上、言葉は無かった。

 

 ラハムは皮の鎧を2着手に入れ、ヘリルに挨拶を済ますと、衛兵と共にラフムのいる小部屋に戻った。

 ラフムは青ざめた顔をしていたが、ラハムの顔を見ると少し明るい表情になった。ラハムは、「心配ないよ。」と声をかけた。そして、天幕を出たらヘリルの部屋で遭ったことを話さなくては、と考えていた。

 

 

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