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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(6)

 

 サーバントの詰め所には、10人の賞金稼ぎが当直として詰めていた。サーバントとは町の運営業務に携わる賞金稼ぎの事だが、最も重要な任務は治安維持である。町で発生した事件や事故への対応の為、常に10人程度の賞金稼ぎがここに常駐しているのだ。

 詰め所の当直のいる大部屋の隣に小部屋があった。ラフムとラハムはこの部屋に通された。部屋の扉には“トレーナーの部屋”と記されていた。

 その部屋に20代後半ぐらいの男がいた。彼がエンリルだった。

 20代後半という年齢は、サーバントとしては高齢である。茶色の髪はあまり手入れをしていないらしくぼさぼさで、無精髭を生やしていた。しわの付いたシャツ、くたびれたブーツを身に着けていて、さえない感じを全身から発していた。

 ラフムとラハムは、部屋に置かれたテーブルを囲んでエンリルからギルドの説明を受けた。見た目に反して声の通りは良く、不思議に強い信念を感じる話し方だった。

 説明の主な内容は、ギルドから斡旋された仕事を引き受けるかどうかは自由だが、1年以上何も引き受けない場合自動的に除名になること、ギルドから連絡を受けられるように滞在地を事前に報告すること、などである。また、ギルドを裏切り、損害を与えた者は死をもって償わなければならない、と付け加えられた。それはつまり、賞金首になることを意味していた。

 「それともう一つ、これは暗黙の掟なのだが・・」エンリルは思い出したように付け足した。「賞金稼ぎ達はいろいろな目的を持ってこの仕事に就いている。メンバー同士の個人的なつながりはお互いが望んでいれば自由だが、初対面の相手に旅の目的について尋ねたり、詮索したりする事はタブーだ。また、ギルドから引き受けた仕事を他の賞金稼ぎに話す事も禁止だ。賞金稼ぎは常にカネで動いている事を心得るように。内紛を避けるためには利害関係を作らないことが最良の方法なのだ。」

 これは、ラフムとラハムにとっては願ったりかなったりだった。師匠ヌディンムトからの指令については他人に漏らさないようにと強く指示されていたからだ。

 説明の後、エンリルは言った。

「これらを踏まえた上で、グリヌフスで遭遇した話を聞かせてくれないか。ウィルパーはお前たちがその場にいなければ殺されていたと証言している。サーバントとして状況を把握しておきたいのだ。」

 この求めに応じてラフムは執政官の館で遭ったことを話した。グリヌフスに行くことになったのはヌディンムトからの指示であった事と、キシャルに取引を持ちかけられた事は話さなかった。ラフムには、キシャルとの取引に心が動いたという事を隠したいという思いがあったのだ。

 エンリルは、しばらく何かぶつぶつと独り言をつぶやいた後、話し始めた。

「お前たち、ここへ来る途中に商人街を通っただろ?」

「はい。」ラフムが答えた。

「その中に大きな天幕があったのに気づいたか?」

「気づくも何も前を通ってきましたよ。」ラハムが答えた。

「あれはヘリルという行商人の天幕なのだ。ああいう豪商は大抵、町から町へ物を流して大金を得ているのだが、ヘリルはここ3ヶ月ほどあそこに居座っている。俺はあいつが前から臭いと思っていたんだ。」

「どういう意味ですか?」ラハムが尋ねた。

「ヘリルは数ヶ月前から無数の討伐の依頼をギルドに申請している。だが、半分以上の討伐が失敗し、賞金稼ぎは大怪我を負うか、死んでいるのだ。ギルドからの依頼は誰にも話さないのが掟だ。その上ギルドは依頼主の名を伏せているので、ヘリルの依頼で賞金稼ぎが多数死んでいるという事実は表ざたになっていない。」

「でもなぜあなたは依頼主を知っているのです?」ラフムが尋ねた。

「調べたのさ。まあ、やり方はここでは話せねえ。とにかく今回のウィルパーの仕事も依頼主はヘリルだった事は分かっている。そこにそんな魔導士がいて罠をしかけていたというのは、何か裏がありそうだ。プンプン臭うぜ。」

「ヘリルは何かを企んでいるんですか?」ラハムが尋ねた。

「それはまだ分からねえ。」

「理由もなく賞金稼ぎを殺すなんて、意味無いと思うんですけど。」ラフムが言った。

エンリルは後ろを向いて少し考え、短く刈っている顎鬚を手で撫でた。

「お前たちにはまだ分からないだろうが、」顎鬚から手を離して、二人の方を向いた。「このサーバントという仕事の半分は勘だ。人の匂いを嗅ぎ分けられなかったら何もできねえ。匂いをかぎ分けてから、証拠を見つけ出すのだ!」

そのとき、隣の部屋から女の笑い声がした。ラフムとラハムは習性から、右手が剣の柄の方にピクッと動いた。

「犬みたいに嗅ぎまわってばかりで、ちっとも出世しないのも問題だけどね!」

隣の部屋から入ってきたのは、長身の若い女で、草色のローブを身にまとっていた。黒く長い髪を後ろで束ねており、面長の顔は美人だが狐のような印象だった。額に着けたサークレットをはじめ、ネックレス、イヤリング、ブレスレットと、どれも何か魔法の力を感じる金色の装飾品を身に付けていた。

 エンリルは苦笑し、頭を掻いていた。女は続けた。

「かわいいお客さまだこと。紹介してもらえないかしら?」

「ああそうだな。」エンリルは椅子から立ち上がった。「この二人はラフムとラハムといって、昨日ギルドメンバーになったばかりの新米だ。しばらく俺が面倒を見る事になった。」エンリルは今度はラフムとラハムの方を向いた。「こいつはフーレイ。ギルドでは俺たちよりランクが上だ。怪しげな魔法を使うので気を付けた方がいい。」

「魔法はみんな怪しいさ!」フーレイはエンリルを睨んだ。

「もしかして、召喚士ですか?」ラフムが尋ねた。

「あら、なぜそう思うの?」

「あなたの身に付けている装飾品が全て金でできているからです。召喚士が召喚手順を封印する品(※1)は、熱、湿気や時間によって変化しないものを選ぶべきであると師匠から聞いた事があります。金の装飾品は最もそれに適した金属です。」

「ふーん。」エンリルが目を丸くした。

「でもそれだけでは、半分正解。あたしは精霊専門の召喚士さ。」

「“精霊使い”ですか・・・。」

ラフムは精霊使いと呼ばれる魔法使いに会ったのは初めてであった。

「ちょっと変わり者でな。」エンリルが言った。「サーバントは随分前に卒業したんだが、ちょくちょく協力してくれるんだ。今日もこうしてやってきたのは・・・何だっけ?」

「何言ってるの!」フーレイはエンリルにきつい眼差しを向けた後、ラフムとラハムの方を向いた。「この人はね、さっき話していた商人ヘリルの身辺を嗅ぎまわっていたのさ。そしたらギルドから目を付けられて、謹慎処分を食らっちまって、サーバントの捜査チーフからも外されたのよ。それで、最近はあなた達のような新米ギルドメンバーのトレーナーをしているってわけ。私はギルドからの命令でこの人の監視役をしているのよ。」

「そうなんだよ!」エンリルはわざと大きな声を出した。「ヘリルの身辺を調べただけで、もう3ヶ月も謹慎だぞ。これは裏に何かある!」

「全くもう!」

フーレイはそう言ったが、ラハムにはあまり本気で怒ってはいるようには感じられなかった。監視に来たのは本当のようだが、何か楽しんでいるようだった。ラハムは、この人たちとなら上手くやっていけるのではないか、と思い始めていた。

「で、私たちはこれからどうすればいいのですか?」ラフムが尋ねた。

「とりあえず宿へ帰るがいい。最初はギルドから簡単な仕事が出ると思う。宿代ぐらいにはなるだろう。あと、数日以内にヘリルから呼び出しが来るだろう。」

「えっ!どういう事でしょうか。」

「ここ数ヶ月、ギルドの新メンバーは必ずヘリルから呼び出しを受けている。まあ、取って食うわけではないので行ってみてもいい。武器や防具をくれたりする事もあるようだ。」

 

 ラフムとラハムは宿に帰ることにした。その晩、師匠ヌディンムトへの報告書を書いた。ただ、まだキシャルの部屋にあったグリヌフスの人口推移や食糧管理表の意味が分からなかったので、中間報告という形にした。

 それから数日間はギルドからの役務をこなす日々だった。役務とは荷物運びや集金などの雑役である。

 5日後、役務を終えて宿に帰ると留守中にヘリルの使いから伝言が来ていた。その内容はエンリルの言ったとおり、明日早朝に天幕に来てほしい、だった。

 

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(注)

※1 一般に異世界の住人を召喚するには、複雑で長い召喚手続きが必要である。この手続きを品物に封印し、その封印を解く短い呪文を用意することで、召喚士は召喚手続きを一瞬にして実行できるようになる。