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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6) 

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(4)

 

「ラハム!」

ラフムは、星々の部屋を出て元の部屋に戻った。

 そこにはラハムはいなかった。扉は開いている。ラフムは急いで扉を出て通路を見渡した。通路は左右に伸びていて、左の先にはグールと戦った水溜りがある。

 そこで再び戦闘が行われていた。

 3体のグールが、一人の男を取り囲んでいた。男は白い衣を着ていたが、すでに相当なダメージを受けているようで、力なく冷たい地下道にうつ伏せで横たわっている。

 ラハムは、その男を助けに行った様だ。今まさにグール達を挑発し、男から引き離そうとしている所だった。動きは良好で、毒の影響は無さそうだった。

 ラフムは、飛び出そうとした。が、肩を強い力で掴まれた。振り返るとキシャルが後ろに立っていた。

「あの男は賞金稼ぎじゃ。あんなものは助けるに値しない。」

キシャルの目には冷たい色が浮かんでいた。ラフムは肩を掴まれた手を振りほどいた。

「そういうわけにはいかない!」

そう言って、ラフムは走り出した。走りながら剣を抜いた。みすみす人が殺されるのを見過ごしてはおけない。

 ラハムの挑発は功を奏し、グールは男から離れてラハムの方に向かっていた。ラフムはうつ伏せに倒れた男を仰向けにした。意識はあるようだ。男は白いマントの下に黒いトカゲの紋章の入った鎧を身にまとっていた。これは、アリア-サンのギルドの紋章である。キシャルの言う通り、賞金稼ぎであることは間違いなかった。

「すまぬ。足をやられてしまった。」

ラフムが男の上半身を起こしたとき、男は視線の先にいたキシャルを見た。

「あいつか。」

男は独り言のように呟くと、背中に掛けていたクロスボウを手に持った。そのクロスボウは一般的なものより小型軽量で、片手で使えるように改良されていた。装填された矢には銀の矢尻が付いていた。

 男はおもむろにクロスボウをキシャルに向けた。

「あっ!あの人は・・」

ラフムが『あの人は敵ではない』と言う前に、矢はクロスボウから発射された。

 矢はうなりを上げてキシャルに向かって飛び、キシャルが左手に持っていた白い石のようなものに命中した。

 白い玉石は粉々に砕け散り、床に散らばり落ちた。

 男は言った。

「だまされるな!あいつがグールを操っている召喚士だ。」

ラフムは驚いてキシャルの方を見た。キシャルは相変わらず冷たい笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 召喚士とは、魔法使いの中で召喚魔法を使う者の呼び名である。召喚魔法とは、人間以上の能力を持つ異世界の住人、すなわち霊魂や精霊、黄泉の国の怪物や悪魔などを現世に召喚し、その力を利用し魔力を発動する魔法の分野である。(※1)

 ラフムとラハムの師匠である、ヌディンムトも召喚士であった。ヌディンムトは、いにしえの剣士の亡霊を支配しており、契約が満了するまでいつでも呼び出す事ができた。ラフムとラハムに剣の技を仕込んだのはその剣士、アルベルト-レンドル卿である。レンドル卿は剣の技だけでなく、騎士道精神をもラフムとラハムによく語り聞かせた。亡国の騎士が後の世の若者に祖国の精神を伝えたいと願ったのは、どのような心境からだったのであろうか。

 

「ラフム!グールが!」

ラフムがラハムの声の方を見ると、ラハムの挑発に乗り彼を追いかけていたグールたちがなぜか追うのをやめ、右往左往している様子が見て取れた。

「グールを操っていたのはあの玉石なのだ。」

男はそれだけ言って、クロスボウに矢をつがえ、再びキシャルに狙いを定めた。

 キシャルは不適な笑みを浮かべたまま、何か呪文を唱えているようだった。

 クロスボウから矢が発射され、キシャルの心臓に命中したかに見えたが、キシャルの姿は闇に同化するように消えていき、空しく通過した矢は洞窟の壁に突き刺さった。

『少年たちよ、また会おう・・・。』

 ラフムにはキシャルの声が聞こえたような気がした。

 

 主を失ったグールは迷走を始めたが、男の銀の矢がグールの心臓を次々に貫き、再び静寂が訪れるまでに長い時間は掛からなかった。

 足に怪我を負った男は座ったまま話し始めた。

「俺はアンデッド・ハンターのウィルパー。グールにやられてしまうとは全く恥ずかしい話だ。お前たちが助けてくれなかったら俺は今頃グールの胃袋に入っていただろう。」

「あの男は私たちを助けてくれたのです。敵ではないと思っていたのですが・・・。」

ラフムは事の経緯を簡単にウィルパーに話した。ウィルパーは、時折りうなずきながら話を聞いていた。

「俺が不覚を取ったのは、この洞窟に“ターニングアンデッド”を封殺する結界が張ってあったのに気づかなかった事が原因だった。グールどもはひるむどころか向かってきたのだ。キシャルの使った“ターニングアンデッド”のような光はおそらく見かけ倒しで、自分が召喚したグールをねぐらに返しただけだったのだろう。お前たちは一杯食わされたというわけだ。やられてしまった俺が言うのも変だがな!」

 

 ラフムとラハムはキシャルを追うのはやめ、怪我をして一人では歩く事ができないウィルパーを伴ってアリア-サンに帰還することにした。ウィルパーはアリア-サンの賞金稼ぎギルドの正式メンバーだった。ウィルパーを助けて帰還すればおそらくギルドから報奨金が出るだろう。また、あわよくばギルドのメンバーに加えられるかもしれないという計算もあった。実は二人は一度ギルドに赴いた事があったのだが、年齢を理由に門前払いされていたのだ。アリア-サンでギルドメンバーになることができれば、金になる冒険を紹介してもらえるし、この地方を熟知しているメンバーとの情報交換ができるという利点があった。

 帰還する前に、ラフムとラハムはキシャルの部屋を探索した。

 キシャルはここで魔法の研究をしていると言っていたので、価値のある魔導器が見つかるのではないかと期待したのだが、全くの期待はずれだった。もしかするとここで何年も研究を続けていたというのも嘘だったのかも知れない。

 その代わり、意外なものが大量に見つかった。それは、グリヌフスの農地面積の測量結果と何年にもわたる人口調査表、食糧備蓄の管理資料などだった。これらは執政官の館の地下倉庫に眠っていたものをキシャルが発掘し、纏め上げたもののようだった。役に立つものかどうかはさっぱり分からなかったが、ヌディンムトからの、「執政官の館を調査せよ」という命令の範囲であることは確かだった為、持ち帰ることにした。

 キシャルの部屋の探索が終わると、ラフムとラハムは手負いのウィルパーを連れて洞窟を出た。すでに日が傾いていて、今夜はこの廃墟のどこかで野宿する必要がある状況だった。

 ラフムとラハムは野宿できそうな廃屋を探すことにした。ラフムは探索しながら考え事をしていた。

『“同族”とは、どういう事なのだろう・・・。』

 

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(注)

※1 魔法王朝崩壊後の世界においては、「生まれつきの魔法使い」が存在しない事から複雑で応用的な魔法体系は存在せず、魔法使いのほとんどが「召喚士」であったと考えられている。とはいえ、「魔法の書」も「星魔法」も存在しない時代の魔法使いは、古代文字の学習、遺跡の調査、古文書の発掘、魔法実験までの全てを行い、ようやく魔法を使えるようになった。その労苦は想像を絶するものだったであろう。