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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(3)

 

 その部屋の机には羊皮紙の古文書、魔法実験に使う大鍋や瓶、鼻につく匂いを放つ薬草類が所狭しと並んでいた。

 ラフムはグールとの戦いの後、男の招きに応じ地下道の一室にある彼の部屋でラハムの治療を行った。解毒剤は持参のものをラハムに施した。男が薬草の提供を申し出たが断った。グールから助けてもらったのは確かだが、冒険者はたやすく人を信用しない。こんな地下に住む人間ならなおさらである。

 ラハムは部屋の床に敷かれたカーペットの上で眠っている。顔には赤みが戻っているので毒は消えているのだろう。

 ラフムはあらためて部屋を見まわした。男は部屋の中心にある木製の机に置かれた小瓶を何やら調べている。男は顔に深い皺があり、髪は白髪交じりである。年齢は60歳前後に見えた。黒いローブを身に着けているが、肩幅や胸の厚さから体格はしっかりしている事がわかる。

「こんなところで何をしておったのじゃ?」男はしわがれ声で言った。

「私たちは冒険者です。ある筋からここに宝があると聞き、探索しておりました。」

「こんなところに宝が!わしはここに長年住んでおるが初耳じゃな。」

ラフムは嘘が見抜かれたかな、と思ったが動揺を顔に出さないように気をつけた。

「大事を成すには小さな犠牲は必要じゃ。この意味はわかるな。」

「はい。」

「お前たちにここに来るように言った者はこのような危険がある事を知っていたのではないかな。」

「それは・・・分かりません。」これは本当に分からない。師匠はここの状況をどこまで把握していたのだろうか。

「わしは名をキシャルという。ここで研究をしている魔導士じゃ。」

「申し遅れました。私はラフム。これは双子の弟のラハムです。助けてくれた事を感謝いたします。」

「ほぅ・・。ラフムとラハムとな。」

男の目が光るのをラフムは見逃さなかった。しかし、なぜ名前に反応したのかは理解できない。

「お前、生まれはどこじゃ?」キシャルは続けた。

「・・・知りません。物心ついた頃には師匠の下にいたのです。」

「名づけ親はその師匠とやらか?」

「いいえ。私たちが幼い頃に師匠に引き取られたときには、すでに自ら名を名乗っていたそうです。記憶にはないのですが、名づけ親は他にいるはずです。」

これは嘘ではない。キシャルに話して問題になりそうな話ではなかったので本当の事を話した。

「お前たちに限らず、人間は成長すると3歳頃までの記憶を失ってしまう。しかし人間には誰にも幼年期はある。不思議には思わぬか?」

「小さな頃の記憶が無いのは仕方のない事ではないでしょうか。」

「仕方がないで済ませてしまえば、全ての歩みは止まる。わしはここで人間の記憶についても研究しておるのじゃ。幼年期の記憶を蘇らせる事ができればお前たちの生みの親も分かるかも知れぬぞ。」

「えっ?」ラフムは思わぬ話に驚いた。

キシャルは、部屋の奥の扉を開けた。

「太古の魔法使いは、星々の位置や強さが人体に様々な影響を与えるという事を理解していた。」キシャルは一呼吸おいた。「そして、その影響を利用する方法も心得ていた・・・見るがよい。」扉の向こうは薄暗い部屋で、中をのぞくと天井が球形になっており、そこに数多くの星が描かれていた。

「これは、太古の魔法使いが描いたものですか?」

「いいや違う。これはグリヌフスの魔法使いが太古の魔法を研究していた跡じゃ。この館の地下にあったという事は、執政官も関わっていたのじゃろう。」

ラフムはキシャルに続いて部屋に入った。天井には数多くの星が描かれ、何か文字が記入されていたが、読み取ることはできなかった。

「その魔法使いがどこまで深遠なる太古の秘術を明らかにしたかは分からぬ。」キシャルは杖でひとつの天上に描かれたひとつの星を指した。「その前にグリヌフスは滅びてしまったのじゃ。」

「それは何故ですか。」

「“奈落の門”が襲ったのじゃ。」

「“奈落の門”・・・」

“奈落の門”という言葉は、地震や洪水などの自然災害と同じように使われる。また、会話の中で災厄について話すとき、“門”という表現を使ったりする。

 ラフムが知っている“奈落の門”とは、そのような漠然としたイメージだけだった。

「この事は知っておったか?」

「いいえ。」

「そうか、かわいそうに。お前たちの師匠はお前を道具としか思っておらぬ。」

ラフムは確かに師匠は自分たちを道具として使っていると思っていた。しかし自分がみじめだと考えたことは無いし、存在に意味を与えてくれることを感謝しているぐらいだった。キシャルの言葉は心に響かず、同情以外の別の意図をもって発せられたように感じた。

「どうじゃ。わしと取引をせぬか。」

「何でしょうか。」ラフムは興味を持った振りをしたが、警戒感をより強めた。

「お前たちの戦いぶりはなかなかのものじゃった。わしももう年じゃ。外の世界で冒険はできぬ。お前たちがたまに訪れてくれれば、わしはここで研究した知識をお前たちに与えよう。その代わり、そのたびにわしに冒険談を聞かせて欲しいのじゃ。」

少し間をおき、キシャルは続けた。

「おそらくお前たちの師匠にこの話をすれば、禁止するじゃろう。するとお前はわしから知識を得ることができなくなる。だから、師匠には内緒じゃ。」

「なぜ、師匠がそれを禁止するのが分かるのです?」

「それは、師匠がお前たちに話していない事実をわしが持っているからじゃ。」

「私たちの出生、ですか。」

「それだけではない。もっといろいろな事実じゃ。」

「なぜそんなことをあなたは知っているのです?」

キシャルの目に怪しげな笑みが宿った。

「我々は、“同族”だからじゃ。」

「ドーゾク・・・」ラフムは話についていけなくなっていた。

「話はここまでじゃ。さ、取引するのかしないのか。何の損も無い話と思うが。」

ラフムは、この男の言葉に従う事に対して抵抗を感じている。しかし、話の内容にはとても興味を覚えるのもまた事実だ。どちらの感覚を信じていいのか、心が揺らいでいるのを感じていた。

 そのとき、部屋の外で金属がぶつかり合う音が聞こえた。人の叫び声も聞こえる。

 それは、ラフムがよく知った音、戦いの音であった。

 

 

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