Salvador'sCabintrival_dragon_red.gif

 

はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)
(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

→Home    →小説    →作者について    →写真館    →リンク

小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(2)

 

 少年たちは廃墟のメインストリートを通り抜け、地図にある執政官の館の区域に到着した。

「これみたいだな。」

 ラハムは地図とあたりの風景をよく見比べた。執政官の館といってもすでに元の形状は留めておらず、崩れた壁の連なる距離が他の廃屋より長いことから推測するしかない。ただ地図上の位置から考えると、目的地に到着したことは間違いなかった。

 ラフムとラハムは崩れた壁を乗り越え、館の敷地内に入った。

 相変わらず大きな草木は一本も生えておらず、敷地の中心部に大きな建物の残骸と思われる崩れた石の塊が散らばっているだけだった。おそらくあれが執政官が執務を行っていた館なのだろう。二人は慎重にその残骸に近づいていった。二人が歩くことによって転がる小石や瓦礫の音だけが廃墟に響き渡り、静けさがより鮮明に感じられた。

 執政官の館は崩れており、瓦礫の山であった。あまりにも瓦礫が大量のため、二人は手分けして捜索することにした。

 ラハムは瓦礫の山の北側を担当する事になった。こちらは日陰が多いが、まだ日は高い為あまりその影響は無い。

 ラハムは、残骸の山の中腹に彼の身長の半分ぐらいの直径の穴を発見した。穴には縦に並んでいる枠付きの5本の錆びた鉄格子が付いていて、人が入るのを阻んでいた。鉄格子の奥は暗く、よく見えなかった。ラハムは鉄格子の下に擦ったような痕があるのに気づいた。これは最近付いたような痕である。鉄格子をずらせば、人が通れる隙間はできそうだった。

 ラハムは鉄格子を引いてみた。ラハムの手には冒険者がよく使う皮製のグローブを装着しているので、傷つく事は無い。思い切り引っ張った。

 鉄格子は5本とも枠ごとまとまって外れた。と、そのとき穴の奥から何かが飛び出てきた。

「うわあっ!」

ラハムは鉄格子を持ったまま、残骸の山を転がり落ちた。幸い皮の鎧のおかげでダメージはない。ラハムは上を見上げた。

 逆光だった為に認識が遅れたが、飛び出てきた何かは上空にいた。そして今まさに、それはラハムに向かって急降下していたのだ。鷹のような大きな鳥だった。

 ラハムは鉄格子を盾にするように鷹に向けた。直後に激しい衝撃があった。ラハムの顔面を狙ったと思われる鷹の左足は鉄格子を掴み、鷹は右足の鋭い爪をラハムの左肩に食い込ませた。鷹の爪は皮の肩当てを貫通し、ラハムを鋭い痛みが襲った。

「ラハム!」

そのとき、異変を察知したラフムが残骸の南側から姿を現した。それに気づいた鷹は大きな翼を広げて威嚇したが、ラフムはひるまず、剣を抜いて猛然と向かって行った。ラフムは鷹に一撃を加えたかに見えたが、寸前に鷹は飛び立ち、剣は翼の羽を掠めるに留まった。

 鷹はそのまま西の空に飛び去った。

 ラハムの傷は浅く、探索は続けられそうだった。

「あの鷹は伝令だよ。足首に鎖が付いてた。」ラハムが言った。

「こんなところに伝令?」

「いるんだよ。誰かがこの中に。」

ラハムはヌディンムトの命令が何となく分かりかけてきた。つまり、ここの地下にいるのが誰で、何をしているか調査せよ、という事である。いや、あまり観念を固定化しない方がいい、とラハムは思い直した。そこまで師匠が把握していたら、そのように指示があるはずだ。師匠の想定外の可能性を考えた方がいいかもしれない。

 

 ラフムとラハムは、先ほど鷹の飛び出てきた穴から中に入り、探索を開始することにした。

 狭い穴から入ると下り勾配が続いたが、しばらくすると洞窟は広くなった。広い洞窟では立ち上がって歩くことが可能だった。すでに外の光は届かない為、ラハムはランタンを使ってあたりを照らすと、壁は瓦礫ではなく掘削された岩肌に変わっていた。

 どうやら執政官の館には元々地下室があり、街が廃墟になった後もここだけは残っていたようだ。

 しばらく1本道が続いた。地上とは一変して、地下はかなりの湿度があり、空気は淀んでいた。足元には水溜りがあちこちにあり、ピチャピチャという音が遠くで聞こえる事から、どこかで地下水が漏れ出ているようだった。

 二人が慎重に進んでいくと、肉が腐ったような匂いが漂ってきた。

 ラハムはすばやくランタンを置き、持っていた麻袋から小瓶を取り出した。ラフムはすでに剣を抜いている。ラハムは小瓶の中の液体をラフムの剣に振りかけた。刃は鈍い光を宿した。この液体は聖水と呼ばれるもので、ラフムとラハムは来るべき戦いに備えたのだ。

 二人の前には池のような大きな水溜りがあり、泡がぷくぷくと水面に浮かんでいた。次に急激に泡が激しくなったかと思うと、水面から半分腐った死人の顔が姿を現した。

 戦いの相手は、アンデッドと呼ばれる部類に属する怪物グールである。人肉を好んで食べる為、人を襲う。見た目は死んで腐りかけている死体そのものである。

 すでにラハムの剣も聖水で清められており、グールが水溜りから出てきたところを二人は得意の挟み撃ちで斬りつけた。

 聖なる光を宿した剣は、攻撃のたびに腐った体からジュッと焼けるような音と響かせると共にグールに火傷のような傷を負わせた。

 この先制攻撃は功を奏し、グールが陸に上がって2、3歩進んだときにはほとんど攻撃能力を失っていた。ラフムはグールの首を刎ね、ラハムは心臓にとどめを刺した。

「こんなところで・・・うっ!」

ラハムが何かをラフムに話そうとした瞬間、水溜りから鉤爪の生えた手がラハムの足首を掴み、水溜りに引きずり込んだ。

「くそ!まだいたのか!」

ラフムは水溜りに飛び込み、ラハムを掴んだグールの腕に一撃を加えた。グールの腕はちぎれ、攻撃目標をラフムに変えた。

 水溜りはラフムの腰あたりまでの深さで、思うように身動きが取れない。ラフムはグールの攻撃をかわし、渾身の一撃でグールのもう一本の腕を切り落とした。グールはそれでもラフムに近づいてきたので、ラフムはグールの首をはねた。

 ラフムは急いでラハムを水溜りから引きずりあげた。

 ラハムはグールの爪から入った毒に冒され、全身が麻痺し動けなくなっていた。

 しかし、治療している時間は無かった。ラフムが周りを見ると、水溜りから3体目のグールが姿を現していた。いや、そればかりではない。通路の奥からそれ以外に2体のグールがこちらに向かってくるのが見えた。しかも、水溜りで戦ったせいか、剣の光が弱まり、聖水の効果が切れ始めている事を示していた。

「まずいな。」

ラフムの目はすでに逃げ道を探していた。前のグールは1体だが、水溜りを越えて向こう岸まで渡るのはリスクが高すぎる。後ろのグールは2体だが、入ってきた通路を戻ることになるので都合がいい。しかし、どちらにせよラハムが麻痺から回復しないと身動きが取れない状況である。

 そのとき、水溜りの向こう岸から白い光が見えた。光は徐々に輝きを増し、辺りを昼間のように照らし始めた。

 グール達は苦しそうに身をよじった。不死の怪物は光が苦手である。逃げ場を求めて右往左往し始めたが、光を遮るところなどどこにもない。

 ラフムはその光が向こう岸に立つ一人の男の持つ玉石から発せられているのを見る事ができた。光は強力なターニングアンデッド(※1)の効果を生み、グール達は水溜りの底に存在するのであろう自分たちの住処に戻って行った。

 向こう岸の男が言った。

「ようこそ、我が家へ。」

 

 →NEXT

 

(注)

※1 アンデッドと呼ばれる怪物には、聖印や太陽光、銀製品に代表される共通した弱点が知られている。本書では、それらを効果的に使用し、アンデッドを退散させる技をターニングアンデッドと呼んでいる。