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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(15)

 

「見えるんだ。あの煙の中にはエンリルとキシャルがいる・・・。」

「えっ!?」

 ラハムは黒煙を見上げた。ラハムにはただの煙にしか見えなかった。

 しかし、ラフムはその中に、人の姿を見ていた。ヘリルとキシャル、そしてエンリルである。

 ラフムは黒煙がヘリルの天幕から立ち上っている姿を見たとき、これまでの全ての記憶と合致したように感じた。それは、昨夜眠りにつくときに感じた事を到達点とする記憶である。昨夜感じた自分が成すべきこと、それは、“命を懸ける”事だった。具体的な方法は分からなかったが、そう感じたことを覚えている。

『エンリル!』

 ラフムの脳裏にエンリルの姿が写し出された。

 熟慮しているときの髭を触るしぐさ。

 ギルドの弾薬庫にも忍び込める、と自慢したときの真剣な眼差し。

 別れ際の吹っ切れたような表情。

『エンリルが、やったんだね・・・。』

 ラフムは確信した。町に危機が迫っている。エンリルは、サーバントの中でも町を守るという責任感が人一倍強い男だった。ただ、それはギルドへの忠誠心に由来するものではない。

 エンリルなら、10日後に迫った危機を何としても回避することを考えるだろう。マルドックの計略そのものを打ち砕かなくても、危機を半年でも一年でも先に送ることで状況を変えることができる。

 キシャルを殺すのだ。そうすれば町を守る結界は完成せず、マルドックは別の計略を立てざるを得ないだろう。そして、ヘリルもろとも天幕を破壊するのだ。それもなるべく派手にやるといい。そうすれば風評が広がり、商人達もしばらくアリア-サンでの行商を回避するだろう。無差別殺人の町というレッテルが貼られれば、人々のアリア-サンへの流入も一時的に停滞するに違いない。とにかく、今は時間をかせぐことが必要なのだ。

 エンリルはギルドの弾薬庫から爆薬を調達し、天幕に突入したのだ。この硫黄臭は爆薬の匂いに違いない。それは、これからのギルドの調査で明らかになるはずだ。

 エンリルの意思どおり、町に結界は張られず、一時的に町の商人も減るだろう。しかし、マルドックは次の計略を練り、仕掛けてくる事は間違いない。

『そう、僕なんだね、エンリル。』

エンリルは自分を信頼し、かわいがってくれた。短い間だったが、理解しあえたと思っている。エンリルは自分に託したのだ、とラフムは確信した。

 しかしその確信は、この仕事は死を避けられそうに無い、という事も同時に予感させた。

 なぜなら、これは“騎士の戦い”だからだ。

 冒険者や賞金稼ぎの仕事は、自分より強い敵が現れたら逃げる事が鉄則である。カネの為の戦いだからだ。ラフムとラハムもそうやって生き延びてきた。

 しかし騎士の戦いは違う、とラフムの剣の師、亡者の剣士アルベルト-レンドル卿は言った。

 騎士は自らの信念の為に戦う。騎士にとって信念とは生きること故、その戦いから逃げるという選択肢は無いのだ。

 レンドル卿はラフムとラハムが旅立つ前、信念が人にとって最も重要であり、それは騎士にだけあるものではない、と説いた。困難に直面したとき、心の中の信念に照らし合わせれば、おのずと進む道は開ける、という言葉を餞別として贈られた。

 ラフムは今、自らの信念の芽吹きを感じていた。それは彼が生まれたときから記憶の底にあり、ときに出現し、彼の行動に影響を与えていたと思う。

 その信念は、エンリルの表情の裏側にあるものと同じであり、これまでの彼の行動は全てそれに由来している。それが分かれば、ラフムもエンリルのようになれるかもしれないと思った。そしてそれが芽吹いた今、しっかりと捉えたかった。ラフムは目を閉じ、その記憶に耳を傾けた。

 記憶は囁いた。

≪・・・・を、滅ぼせ≫

 それは抽象的で、形や言語にできないものだった。しかし、感じたのだ。命を懸けても滅ぼさなければならないものを。

 ラフムはゆっくりと目を開けた。

 心配そうに顔を覗き込むラハムの姿が目の前にあった。

「大丈夫だよ、ラフム。僕達ずっと一緒なんだから。死んだって平気だよ。」

 ラフムの目から涙がこぼれた。

 

 数日後、ラフムとラハムは、ヌディンムトへの報告書に「キシャルとエンリルの死」を付け加えることになった。

 

 

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