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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

(1)(2)

第一章 少年戦士

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

(1)(2)(3)(4)(5)(6)

(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

(1)(2)(3)(4)(5)(6)
(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(12)

 

「マルドックは、ラフム、ラハムの名も古代遺跡の中で見ておった。それは地平の上下を意味する古代の神の名じゃ。そしてお前たちの生い立ちは我々と同じ、つまり同族なのじゃ。

 我々はお前を歓迎したい。

 お前が師に忠誠を誓っておるのは知っている。その生き方は今後も続ければよい。ただ、我々はお前たちと同族で、この荒んだ暗黒の時代に王朝を復活させ、世界に秩序を取り戻すという高い志を持っている事を知ってほしい。そして、できる範囲で協力して欲しいのじゃ。わしが嘘を言っていると思うか?」

ラフムはぼんやりとした意識の中で、キシャルの言葉を否定できない強制力に心を締め付けられていた。ただ、キシャルの話が途切れた今、ラフムは疑問をぶつけたかった。その欲求を苦労の末、ようやく喉から搾り出した。

「・・・ではこの商人の天幕であなたは一体何をしているのです?」

「マルドックが王の復活に選んだのがこのアリア-サンの町じゃ。わしは彼からここで王を迎える準備をする大役を仰せつかった。その準備にはアリア-サンのギルドに近づく必要がある。そこに、たまたま野心を持った商人がおったので利用しておるのじゃ。」

「ヘリルは何か企んでいるんですね・・・。」

「奴の企みなどかわいいものじゃ。自分の気に入らない賞金稼ぎを抹殺してこの町で勢力を伸ばそうとしている俗物よ。カネのことしか頭に無い商人を操る事などたやすいことじゃ。」

「・・じゃあ、あなたはやはりその企みに協力している・・・?」

「かわいいものと言っておるじゃろう?」キシャルは否定しなかった。「ここでの話は誰にも話してはならぬ。魔法王の復活は今の権力者にとって非常に重大な問題じゃからのう。お前がもしこの話を漏らせば、世界の秩序に汚点を残す事になる。そして未来永劫お前はその責を負うことになる・・・。」

キシャルがラフムの目の前に手をかざすと、ラフムの意識は遠のいていった。

 

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「・・・次に気が付いたときには、僕は元の控えの間に立っていたんです。」

「そこに、僕が帰って来たんだね。」ラハムがそう言うと、ラフムはうなずいた。

「でも信じられないよ!」ラハムが問い詰めるように言った。「何で今頃それを話すのさ。僕はヘリルの部屋の事をすぐに話しただろ。」

「内緒にしたくは無かったし、自分では話したかったんだけど、どうしても話せなかったんだ。」

「意味が分かんないよ!」

「どう言ったらいいのか・・・。話そうとすると、嫌な気分になるというか・・・。ごめんよ、ラハム。」

ラハムは怒ったふりをしていたが、内心は困惑していた。これまでラフムとの間で隠し事が存在した事はなく、ラハム自身、どう対処してよいか分からなかったのだ。

「それは、“禁忌の魔法”(※1)じゃな。」ネポが静かに言った。

「魔法・・ですか?」ラフムが言った。「かけられた覚えはないのですが・・・。」

「世の中には気づかないうちにかけられてしまう魔法も多くある。が、心配はない。ラフムは自力でそれを解いたのじゃ。強い心を持っておるのじゃな。」

部屋に安堵の空気が流れた。フーレイがその空気を察知して話し始めた。

「でも、キシャルの話もそれなりに筋が通っていて説得力がありそうじゃない。あんな話を聞かされたら、少年達が取り込まれても不思議じゃあないね。キシャルの言っている事に嘘は無いのかねえ。」

「邪悪な者は悪魔の顔をしていない。聖人の顔をして近づいて来るものじゃ。だまされてはならぬ。理性的に物事を判断するのじゃ。」ネポが話し始めた。

「キシャルの話には、細かなところで具体性が無い。“奈落の門”が“王”を復活させると言ってみたり、我々を“生んだ”というが、重力場である“奈落の門”がどのようにして生身の人間を生むのじゃ? わしは経験的に“門”が出現した年に幼子が現れる事を知ってはおるが、それを『“門”が生む』とするのはあまりに早計じゃ。古代の魔法使いとはいえ、人を製造するという神の領域にまで到達していたというのは飛躍し過ぎじゃろう。

 また『マルドックが王の復活に選んだのがアリア-サンである』という言葉は、わしの推測した“奈落の門”をこの町に呼ぶ計画を裏付けるものじゃ。キシャルがラフムを本気で仲間と思っておるのなら、なぜ“門”を呼ぶ計画を伏せておるのじゃ?

 要するにキシャルは、嘘をついてはおらぬが話の核心には触れておらぬ。ラフムを利用しようとしていたに過ぎぬのじゃ。」

「私を利用してどうしようというのでしょうか。」

「それは、お前の師匠であるヌディンムトにでも訊いてみるが良かろう。ヌディンムトとマルドックがわしの元を離れてから、二人の間に何があったのかは知らんのじゃ。」

 再び部屋に沈黙が訪れた。

 エンリルはラフムの話を聞いてから一人考えにふけっていたが、何かを確信したように、おもむろに立ち上がった。

「まあ、とにかくキシャルとヘリルがつるんでいる事はこれで分かったわけだ。ラフムのお手柄だな。礼を言うぜ。

 今回の一件は、みんなよく協力してくれた。師匠、貴重なお話、ありがとうございます。」

「だが、何も解決してはおらぬぞ。」ネポが言った。

「分かっています。しかしここでいくら議論していても煮詰まるばかりだ。この話は俺が預かります。今日のところはこの件を忘れて日々の仕事に帰ってくれ。何かあったら協力を要請する。」

 

 ラフムはその言葉で腰を上げた。正直言って、ラフムはこの重くて難しい問題から早く離れ、二人だけになってこじれたラハムとの関係を修復したかった。ラハムもおそらく同じ気持ちだったのだろう。すでに心ここにあらず、といった表情をしている。

 ただなぜかフーレイはその場に居座っている。訝しむエンリルと目が合った。

「仕事に帰れって言うけど、あたしの仕事はあなたの監視だよ!」

 

 ラフムとラハムが小屋を出ると、すでに外は薄暗くなっていた。エンリルは二人と分かれるとき、あらためてねぎらいの言葉をかけた。エンリルの表情は何か吹っ切れたような、清々しさを湛えていた。

ラフムは、その表情を見て自分の心が晴れないのと対照的だと思った。自分はこの難題から逃げようとしていた。それが心を曇らす原因だと分かっている。しかし、エンリルは同じ立場にあるにも関わらず、みんなの心を察知してあの発言をしたのだ。リーダーとしてそのような行動を取れる勇気、経験をいずれエンリルから学びたい、とラフムは考えていた。

 だが、その望みは叶わない。このときがエンリルとの最後の別れになるのである。

 

(注) 

※1 客観的に見て、キシャルがラフムにかけたのは魔法ではなく催眠術である。おそらくラフムが服した飲み物にも催眠を促進する成分が含まれていたのであろう。この当時は魔法分類学は進んでおらず、催眠術、読心術、話術なども含めて全て魔法と呼んでいたと考えられる。

 

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