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はじめに

登場人物および地名

序章 イリアステームの杖

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第一章 少年戦士

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)
第二章 空中庭園

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)      

第三章 邪悪なるもの

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

(16)                 

第四章 七惑星の巫女

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(7)(8)(9)(10)(11)
(12)(13)(14)(15)

(16)(17)(18)(19)

(20)(21)           

終章 記憶の底

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(7)(8)(9)(10)(11)

(12)(13)(14)(15)

おわりに

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小説「七惑星の記憶」

 

第一章 少年戦士

 

(1)

 

 遠い昔、数千年に渡り世界を支配した魔法文明が存在したと伝えられている。その文明があるときを境に突如として途絶えた原因は、大がかりな魔法実験の失敗によるものだとか、繰り返し起こった戦争の結果、疲弊した兵士や民衆の反乱によるものだとか言われているが、未だ解明はされてはいない。はっきりしていることは、ラクリフォンス紀元前800年頃に最後の王朝が崩壊してから、魔法使いを王とし、魔法を文明の柱とする国家は成立していないという事実だけである。

 最後の魔法王朝の崩壊から600年後のラクリフォンス紀元前200年頃、まだ本格的な国家が形成されず、無秩序が支配する世界で、人々は小さな町や集落を作り魔獣や天災に怯えながら細々と世代を繋いでいた。

 そんな時代に存在した、廃墟の町からこの物語は始まる。

 町の建造物はほとんどが崩れ去り、石造りの壁の残骸だけがかつての人々の住居の形や大きさを示していた。その土台もところどころ赤茶けた地面がむき出しになっている。また廃墟には大きな樹木は育っておらず、崩れた石畳の隙間に生えた雑草や崩れた壁をつたうペンペン草がみられるだけである。照りつける太陽光は建造物の残骸の陰影をくっきりと浮かび上がらせ、廃墟を支配する静寂を際立たせていた。

 その建造物の暗い影に隠れるように、二つの小さな人影が慎重な足取りで移動していた。

 人影は二人の少年のものであった。

 少年たちは鉄の鋲で強化されたなめし皮の鎧を身につけ、手には細身の剣を握っていた。そして、ブロンド色の髪と白い肌、黒い瞳。二人とも鏡に映したように同じ背格好をしている。双生児である事はあきらかだった。

 二人は、かつてメインストリートだったと思われる幅の広い通りに差し掛かったとき、目の前の異様な光景に気づき歩みを止めた。彼らの目の前の道の石畳がえぐれ、赤褐色の土が盛り上がっていた。そして、その盛り上がりは通りの向かい側まで長く続いていたのだ。

 しかも、地面が微動している。それを感じた瞬間、すでに戦いは始まっていた。

 突然目の前の地面が盛り上がったかと思うと巨大な黒い角が突き出て、二人は左右に跳び分かれた。黒い角の持ち主は、少年たちの背丈の約2倍の全長を持つ甲虫、ジャイアント・ビートルであった。自分の縄張りに入ってきた獲物を捕らえるべく、巨大な4本の角の生えた黒光りする身体を地中から現した。

 右に跳んだ少年がすばやい動きでビートルに近づくと、細身の剣で角を叩いた。剣は簡単にはじかれたが、これは本気で角を切り落とそうとしたのではなく、挑発であるようだった。本能に支配されているビートルはその挑発に乗り、その少年に頭を向け突進の構えを見せた。

「ラハム!」

少年がそう叫ぶと同時にラハムと呼ばれたもう一人の少年はビートルの後ろから背中に飛び乗り、ビートルの首の根元にある硬い甲の隙間へ細身の剣を突き刺した。

 ビートルは少年を振り落とし、地面を転がりまくった挙句、ぴくぴくと六本の足を動かした後、あっさりと絶命した。

「ラフム、何匹目だろうか。」

ラハムがビートルの首から剣を抜きながら、独り言のように呟いた。

「9匹だ。」ラフムと呼ばれた少年が答えた。

「割が合わないなあ。」

ラハムがこう呟いたのは、ビートルを倒しても金目のものが何も手に入らないからである。

 少年たちは戦いやトレジャーハントで得た戦利品で生計を立てる冒険者であった。

 二人は12歳になった日から、師匠の下を離れ、旅を続けている。

 旅を続けて1年が経とうとしていたある日、二人が宿泊していた宿に師匠のヌディンムトから手紙が届いた。師匠には定期的に居場所と計画を報告していたので手紙が届くのは不思議な事ではなかったが、手紙には旅に出てから初めて指令らしきものが書かれていた。それは、

『グリヌフスの執政官の館を調査し、詳細に報告せよ。』

という短い一文だった。手紙と共にグリヌフスの地図が同封されていた。

 グリヌフスが廃墟であると分かったのは、グリヌフスから約10リーグ離れた場所に位置する賞金稼ぎの町、アリア-サンに到着してからだった。ラハムとラフムはそこを拠点に準備を整え、グリヌフスにやってきたのだ。

「この探索は金儲けが目的じゃない。愚痴るなよ。」

ラフムはそう言って歩き出したが、『では、何が目的なのだろうか。』と心の中で自問した。ここに膨大な財宝があるという情報を掴んだのか、単なる修行の為なのか。師匠ヌディンムトはいつも多くを語らないが、何か大きな困難に立ち向かっていることをラフムは幼い頃から自然に理解していた。孤児であった自分たちを育て、一人では非力だが二人のコンビネーションで闘う技を身につけさせたのも、いち早く戦士としての戦闘力を高め、師匠の片腕となる為であると確信していた。ラフムは、師匠であり育ての親でもあるヌディンムトの思いに応えたいと強く意識していた。

 ただ、双子の弟ラハムには少し違う思いがあった。

 師匠の下を離れてラフムと旅を続けて1年、実戦は彼らを日々鍛え、二人は1年前とは比べ物にならないぐらい成長した。危険な目にも遭ったが誰の助けも借りずに生き抜いた事は大きな自信になっていた。ラハムはこの冒険者としての生き方に強い魅力を感じていた。この世界には未開拓の土地はいくらでもあり、冒険者としての仕事は尽きる事はない。この一年、自分たちが未熟であることも痛感したが、ラフムと二人ならどこまでも行けるような思いを抱くようになっていた。師匠の命令に逆らうつもりはない。ただ、自分たちの成長は結果的に師匠の為になる、と考えていた。

 ラハムはまた、このグリヌフスに着いたときから妙な感覚を味わっていた。

 町全体が魔獣の巣窟であるにも関わらず、何かこの廃墟の風景を見ていると落ち着き、妙な安心感で心が満たされるように感じるのだ。

 ラハムはそれを根拠の無い楽天的な将来への希望により自信過剰になった心に生まれた危険な感覚であると考えた。ラハムはその気持ちを抑え、心の奥にしまいこんだ。この気持ちの本質が分かったのは随分後になってからである。

 

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